スターバックスを世界規模のコーヒーチェーン店へと導いたCEOが、ハワード・シュルツ氏です。幼少時の体験などを会社経営に活かし、顧客だけでなく従業員にも喜ばれる店づくりに成功しました。その経歴や優れた手腕は、さまざまなビジネスシーンで参考になるでしょう。そこで今回は、シュルツ氏の歩みやスターバックスで見せた経営手腕をご紹介します。

スターバックス入社への歩み

ハワード・シュルツ氏は、米国ニューヨーク州で生まれました。大学卒業後に数社で勤務した後、スターバックスに入社します。

生い立ち

シュルツ氏の出生地は、ニューヨーク州にあるブルックリンです。1953年、ユダヤ系ドイツ人移民の家に誕生します。

当時、父親は退役軍人でありトラックやタクシーを運転しながら家族の生活を支えていました。裕福とはいえない家庭環境のなか、長男として生まれたシュルツ氏は子どもの頃から家計を助けるため働き始めます。

12歳で新聞配達や軽食堂の仕事を経験し、16歳になると授業の後に毛皮加工工場で勤務しています。大学にはアメリカンフットボールの特待生として進学し、在学中はコミュニケーション学などを学びました。

大学卒業後の職歴

大学卒業後は、まずゼロックス社に就職します。その後、ハマープラスト社へ移っています。

ゼロックス社は、主に印刷機器の製造販売を手がける米国の大手企業です。日本国内でも、同社の製品を見かけることは少なくないでしょう。そんな知名度のある会社にシュルツ氏は入りますが、やがて退職します。

同氏が新たな勤務先に選んだ職場は、当時、家庭雑貨などを扱っていたハマープラスト社です。同社にスターバックスからコーヒーマシンのオーダーがあり、その機会にシュルツ氏はスターバックスへの転職を決意したと伝えられています。

スターバックスへ

シュルツ氏を動かしたといわれる要因のひとつは、スターバックスの創立者がコーヒーに向ける情熱です。

もともとスターバックスは、1971年に文学教師のジェリー氏と作家のゴードン氏により設立されました。さらに歴史教師のゼブ氏なども加わり、コーヒー豆を焙煎する会社として出発します。

シュルツ氏が同社を気に入り、再就職を果たしたのは1982年です。当時の話では、あまりの熱意により最初は入社を断られたといわれています。それでも断念せず説得を続け、最終的に入社を決めたとのエピソードが残っています。

スターバックスで見せた手腕

ハワード・シュルツ氏は、スターバックスに入社すると優れた経営手腕を発揮しました。とくに業績の傾いた同社を立て直した際は、世界的に多くの注目を集めます。

コーヒーを楽しめる空間づくり

シュルツ氏の能力の高さを物語る経営プランの1例が、コーヒーを楽しめる空間づくりです。

このプランは、イタリアで出会った風景に由来します。コーヒー豆の買い付けで現地を訪れた際、シュルツ氏はコーヒーなどを提供するカフェバールに目を止めます。そこでは、ゆっくりエスプレッソを味わえる空間が生活の一部になっていました。

強い感銘を受けた同氏は、帰国するとイタリアのカフェバールを参考とした居心地のよい店舗づくりを提案します。オーナーたちに断られると迷わずスターバックスを退職し、自分の理想を実現するためイル・ジョルナーレ社を創業しました。

従業員を大切にする経営スタイル

シュルツ氏の経営スタイルは、従業員を大切にする姿勢が大きな特徴です。その背景には、幼少時の悲しい体験があります。

同氏が7歳になった頃、父親は仕事で事故に見舞われます。大怪我を負いますが、労災や手当は何もないまま解雇されてしまいました。家計が苦しいなか、失業した父親が荒れる様子を見ながら働きに出たといわれています。

そんな少年期を過ごしたシュルツ氏は、従業員を大切な存在であると考えました。実際、「従業員を大切にする企業をつくりたかった」と語り、スターバックスではビジネスパートナーと呼んでいます。

徹底した方法で経営危機を克服

スターバックスが経営危機になった際、シュルツ氏が実施した再生プランは徹底的でした。

シュルツ氏はイル・ジョルナーレ社を設立した後、売りに出されていたスターバックスを統合します。新たなスターバックスは「くつろげる空間の提供」に成功し1992年から急成長しますが、2000年に同氏がCEOを退任すると経営は傾き始めました。

2008年、CEOに復帰したシュルツ氏は徹底した会社の刷新に取り組みます。米国内の全店舗を一時的に閉鎖し、バリスタの再教育などを進めました。またハリケーンの襲来で大きな被害が生じた際は、大規模なボランティア活動も展開します。

採算を度外視したシュルツ氏の情熱は従業員や顧客に理解され、スターバックスは驚異的な回復を成し遂げます。

ハワード・シュルツ氏の人柄や日課

ハワード・シュルツ氏は常に尊敬の念を忘れず、「誰とでも良好な関係を築ける」と称される人物です。日課に目を向けると、普段の心がけも見えてくるでしょう。

誰に対しても尊敬の念

シュルツ氏は、ブルックリン訛りの話し方、イタリア料理を好むこと、どんな人にも敬意を払う人柄で広く知られます。

そんな人間性が形成された地は、シュルツ氏が生まれ育ったニューヨークのブルックリンです。自分の出身地や毎日の生活に追われた経験は決して忘れないと述べ、冨や名声を誇示する素振りは見せないといわれています。

とくに父親が失業したときの辛い状況は従業員を大切にする姿勢につながり、スターバックスの福利厚生の充実に活かされました。健康保険はパートタイマーまで幅広く適用され、従業員やその家族を幸せにしていると高い評価を得ています。

日課から分かる普段の心がけ

シュルツ氏の日課は、朝4時30分の起床から始まります。本人によると、「朝のちょっとした投資はその日の全部に影響を与える」との考えが早起きする主な理由です。

起床したらエクササイズで体を動かし、家族と朝食をとります。食事中は、すべての通信機器の電源を切っておきます。日頃から、決まった時間にゆっくり食事する生活を心がけているとのことです。

朝の時間を大切に考える姿勢は、世界的な成功者の多くに共通するといわれます。普段、慌ただしく過ごしているなら、少し早めに起きるのもよいかもしれません。

まとめ

ハワード・シュルツ氏は、スターバックスを世界屈指のコーヒーショップチェーンに育て上げたCEOです。同社の経営が悪化すると大きな損失を出しながら改革事業を断行し、経営再建へと導きます。

他にも多くの場面で見事な手腕を示したシュルツ氏の基本方針は、従業員を大切にする姿勢です。たいていの職場で従業員は不可欠であり、同氏の考え方は参考にする価値が高いと考えられます。